コント『A'』

1 夜 ある夫婦の家

アンバーの明かりがついた部屋はごちゃごちゃと散らかっている。旅行の写真、DVD、テーマパークのグッズその他いろいろ。

夫婦の声が聞こえる。

妻の声「ねえ、早くあの宇宙人を追い出してよ」

夫の声「いや、確かに女だか男だかわからない見た目してるけど、宇宙人って失礼じゃないか」

妻の声「じゃあ、外人? 変、絶対、おかしい」

夫の声「可哀想じゃないか、言葉もわからない国で」

妻の声「不法入国の移民でしょ」

夫「可哀想な思いをしてしたんだよ、母国で」

妻の声「本当に怪しい。明日本当に追い出してよ」

夫の声「わかったよ」

 


2 昼 同

陽の光が射している。部屋がすっかり片付いている。無造作に並べてあった家具や小物がすべて整頓されている。

妻の声「ねえ、見てこれなんなの! 絶対あいつの仕業だ!」

夫の声「本当だ」

妻の声「ねえ、やっぱり異常でしょ、あの人。何か盗まれてるかもしれない」

夫の声「ああ、あいつ、まだいるよな? 警察に連れてく」

 


3夜 同

部屋のランプがついている。

妻の声「ねえ、なにまたこの人連れてきてるの?」

夫の声「この人何も盗んでないよ」

妻の声「盗んでなくたって、追い返してよ、こんな人」

夫の声「いいだろ、部屋を片付けてくれたんだし」

妻の声「わたし、探すの苦労した、色々なもの、携帯、リモコン、印鑑、財布、ぜんぶ違うところにあった! もう耐えられない! わたしが追い出す!」

 


4 昼 同

部屋は殺風景になる。必要最低限の家具しかない。

妻の声「どこ? 私たちの思い出?」

夫の声「ぜんぶ残してあるはずだった」

妻の声「どこ? どこにもない」

夫の声「覚えてるだろ、俺とお前、一緒の思い出」

妻の声「忘れた」

夫の声「忘れた?」

妻の声「忘れた」

夫の声「お、お、お、お前は誰だっけ」

妻の声「あなた誰? 宇宙人?」

夫の声「俺は、俺は、俺は」

妻の声「私、外国にいる気分」

夫の声「何も覚えてないの?」

妻の声「何も」

夫の声「俺もだ…」