映画評『鉄腕ジム』(1942)

 しかし、ラオール・ウォルシュほど脚を撮った監督はいない。だからして『鉄腕ジム』などといういかがわしい邦題を『俊足ジム』に改めるべきである。飄々としたエロール・フリンのステップは筋骨隆々の拳闘家たちの大ぶりの拳を最も容易く交わす。その際、編集技師を務めるドン・シーゲルはフリンの脚のアップを挿入する。ボクシングとなると、腰から上の上半身の運動、拳を使った殴る男性のスポーツだと錯覚した、数多の目も当てられない失敗作たちがものの見事にノックアウトされるなか、『俊足ジム』は軽やかに身をかわし、ボクシング本来の身体を再構成し、記録したのである。

 それにしても、この映画のシナリオはよくできている。脇役の使い方がなんとも巧みなのだ。 同僚役のジャック・カーソン、意中の女性を演じるマデリーン・ルボー、ヘビー級チャンプのサリバン役のワード・ボンドで、それぞれクライマックスに向けて印象に残る見せ場が用意されている。脇役が脇役でしかない練りの甘い脚本でも面白いものはあるが、こういう古典的な完成度の高さもきちんと参考にしておきたい。