2023-11-19から1日間の記事一覧

映画評『殺しの烙印』(1967)

燃えるトランプ、刺しっぱなしの鍵、浮かびあがるナポレオンの瓶、切り裂かれる写真、真理アンヌ、小川万里子の左眼、といった不可解なクロースアップが、ショットのリズムを刻んでおり、画面の連なりの感覚をズラしている。 律儀な物語作家であれば、猿島の…

映画評『Red』(2020)

『Red』と言うからには、貪りあいながら擦りながら熟れて赤々と熱っていく唇と唇との交わりを表しているのかと思いきや、単にグレーディング、ライティングのほどよい按配の調節に過ぎず、じゃあファーストカットの黒ずんだ布切れをまさかフィクションとして…

映画評『スウィングガールズ』(2004)

川原で水浴びをしながらルーズソックスを振りまわし、はしゃぐ少女たちのワンショットは途方もない。あれはフォードやルノワールより上だ。 安易に美しいと耽美に浸る余韻をも残さぬ、粋な充実ぶりを『スウィングガールズ』は抱いている。 楽器の使い方どこ…

映画評『千羽鶴』(吉村広三郎監督、1953年)

透き通った風が背の高い笹の葉を揺らす。思わず、茶室にいた森雅之と木村三津子はそちらの方に視線を向ける。森はその隙にふと木村三津子の顔をじっと見つめる。伊福部昭のスコアとともに昂る視線劇は見事としかいいようがない。 まず、森雅之は女ばかりでる…

映画評『火口のふたり』

アヴァンタイトルの3カットで紛れもない傑作であると察する。 1.荒涼とした河川敷で釣糸を垂らそうとする柄本佑。鉄橋の上を走る列車が見えるくらいの上からのロングショット 2.糸を垂らしたドウサに、アクション繋ぎでカメラは柄本佑の横に移動。小津的な構…

映画評「春画先生を抱きしめたい」

「抱っこするのが多かったよね」と北川景子が錦戸亮に話を振り、車椅子から身体を持ち上げるのが反動もつけることができないから大変だったと語る。この『抱きしめたい』(2014)の特典映像のツーショットインタビューは極めて貴重な内容であった。 どこまでも…

映画評『モンスターハンター』(2020)

愚かしいまでに薄っぺらな表層と戯れる野蛮さには涙した。 画面の質は上等で、そびえる砂丘に立ち尽くすミラ・ジョヴォヴィッチを逆から入った光で顔を浮かびあがらせてうつくしく照らしている。 もう少しショット数を抑えて説明でドローンのイントレランス…

掌編小説『聖ボウイ』

円筒型の書類ケースの中に『戦場のメリークリスマス』のポスターを丸めていれた。簡単だった。映画が上映したばかりの映画館ほど暇なものはない。受付嬢は携帯をいじるばかりで何も見ちゃいなかった。俺はそのままエレベーターを降りた。 何食わぬ顔で新宿を…