シノプシス『ディジネス』
・登場人物一覧
鳴海 主人公 工作員
京
雫(しずく) 姉
零(れい) 妹
・あらすじ
鳴海は女性工作員で、映画の配給会社に偽装して暗躍する敵組織を探っている。
鳴海は同僚の京とともに、敵の雫を襲撃する。雫は死の間際、「ケ・セラ・セラ」と歌い絶命する。機密データが入った懐中時計のロックを解除する為の解除コードを探さねばいけなくなった。鳴海たちは遺体安置所へ行く。
8・同・遺体安置室
鳴海、京、職員、入る。
足の裏を覗かせた死体が布を着せられて寝台に横たえてある。
職員、布を取る。
死に化粧を施された雫の死体が現れる。顔には痣がある。
職員「まだ死後それほど経っておりませんから、腐敗はすすんでません。この痣は抵抗した際に加害者につけられたものでしょう……」
零の声「しずく!」
零(29)、駆けてくる。
京、、ぎょっとする。
職員「あなた、どこから入ってきたんですか」
雫、死体の手を握る。
零「お姉ちゃん、どうしてこんなことに……」
職員「困ったな。遺族の方でもそう入ってこられちゃ大変だ。刑事さん……」
銃声。
零の顔に血が飛ぶ。
ドサッ、職員の死体が倒れる。転がる松葉づえ。
京、拳銃をに向ける。
京「どういうことだ。お前、確かにこいつを殺したんじゃなかったのか」
鳴海は答えない。
京は鳴海に拳銃をむける。
すると、雫が歩いて近寄ってくる。
京、零に向けて発砲。
零、肩から血をにじませながらも歩みをとめない。
京「なんだ、おまえ」
京、続けざまに撃つ。
弾が当たらない。
鳴海、隙をついて手元にあったビーカーを京にぶつける。
悲鳴をあげる京。顔がただれて煙が噴きだす。
鳴海、零を引っ張って連れて行く。
すると、その死体と生き写しの妹の零が駆け寄る。京は想定外の事態にの裏切りを恐れ、銃を構える。すると、自殺願望のある零が盾になる。
なんとか、鳴海と零はタクシーに逃げこむ。すると、なんと運転手が連続絞殺魔で襲われる羽目になる。それを切り抜けると、零はこれまでのいきさつを語りだす。鳴海はとりあえず刑事と身分を偽り、零を手がかりに懐中時計の解除方法を探ろうとあがく。
二人は途中で寄った自動車の修理屋でおもちゃの人形を見つける。それが零のかつての記憶を取り戻すきっかけとなり、孤児院へと向かう。
18廃墟と化した孤児院
水たまり。
タクシー、切り裂く。
降りる二人。そのまま中へ。
19同・受付
鳴海、ずかずか踏みこむ。
零、人形を大事そうに持ち、初めて来た場所のようにあたりを見渡す。
鳴海、テーブルの引き出しを投げ捨てる。
鳴海「わかるか? もう、おまえしか手がかりがないぞ」
零、ゆっくりと歩きながら、廊下を渡って、吸い寄せられるように階段をあがっ
ていく。
20二階
ドアが開け放たれている。
零、入る。
21遊戯室
零、来る。
大きなひび割れた鏡が置いてある。床には無数の玩具。
零、鏡の自分と手を重ねる。
鳴海、その傍へ。一緒に鏡に映り込む。
零「刑事さん、お名前聞いてもいいですか」
鳴海「鳴海」
零「わたしは零っていいます。姉は、姉は」
鳴海「雫」
零「(膝をつく)ここで私は姉さんと遊んでた」
鳴海 、零の人形を持つ手に手を添える。
零「しずく」
零、じっと人形を見る。
Ⅹ Ⅹ Ⅹ
床に捨てられた人形の家が並べられ、街になる。そのなかに陶器の灯台が。
鳴海、ライターで灯をつける。
零「姉さん、この建物なんていうの」
鳴海「灯台」
零「そうだ、灯台。懐かしいな」
鳴海「覚えてる?」
零「うん、姉さんと一緒に行ったよね、綺麗だった」
鳴海「どこだ?」
零「あれは……」
22波しぶき
23海岸道路
おんぼろのタクシー走る。
Ⅹ Ⅹ Ⅹ
車内。
零、を見つめる。
鳴海、ダッシュボードの懐中時計にちらちらと視線を向ける。
残された時間は少ない。
零「もっとスピードはでないの?」
鳴海「できる限りのことはしてる」
それでものろのろと走り続ける。
すると、馬が現れる。
鳴海、窓から首を出す。
Ⅹ Ⅹ Ⅹ
馬が自動車と並走し、追い越す。
Ⅹ Ⅹ Ⅹ
鳴海、車を停め、降りる。
人馴れした馬は落ち着きを取り戻す。
鳴海、馬を撫でる。
鳴海「こいつなら間に合うかもしれない」
うなづく零。
24走る馬
25灯台
馬から降りる二人。
潮風が吹きつける。
「間違いないな?」
零「ここです、姉さんと来たのは」
二人、入っていく。
26同・らせん階段
二人、登っていく。
27同・頂上
二人、来る。
零、思い出を反芻するようにうろつく。
「どうだ、何か思い出したか」
零「ここじゃない……」
鳴海、訝しむ。
零「姉さんと来た時とまるで違う」
零「こんなところ来たことがない」
鳴海「姉さんとここに来たと言っていたじゃないか」
零「違う、わたしは、わたしは……」
零、展望台へ飛び出す。
28同・展望台
風が吹いている。
零、柵に身を乗りだそうとする。
鳴海「零!」
零「ありがとう、鳴海さん。おかげで全部思い出した。わたしは姉さんとどこにも行ったことがなかったんだ。全部、夢だったんだ」
零、海を見て覚悟を決める。
鳴海「ケ・セラ・セラ」を歌う。
零「姉さん……」
零、に抱きつく。
零「どうして知ってるの?」
鳴海「君の姉さんが命を引き取る時に」
零「じゃあ……あなたが」
鳴海「ああ、まんまと罠に嵌ったよ」
鳴海、零に懐中時計を渡す。
鳴海「君の声だ、暗号は君の声なんだよ」
零「わたしが歌えば解けるの?」
零、歌う。だが、途中で詰まる。
鳴海、リードしてやる。
鳴海と零の声が重なる。
懐中時計が開く。
中にはネガフィルムが入っている。
鳴海「これは……」
銃声。
鳴海、腹を撃ち抜かれる。
29同・頂上
京、現れる。顔が焼けただれている。
京「どこにいる!」
ベランダへ。
鳴海、腹をおさえて座り込むがいる。
京「呑気に歌なんか歌ってる場合じゃなかったな。ふざけた暗号にしやがって。あの
女はどこだ?」
零「ここにいます」
京、振り返る。
ピカッ!
京、まぶしいサーチライトの光に照らされ、目が眩む。そのまま柵を越えて落ち
ていく。
灯台に光が灯っている。
零、傷ついたを起こして、抱きつく。
床に落ちたネガフィルムはそのまま風とともに散っていった。 〈END〉
解説
Vシネマでいわゆるフィルムノワールな映画を撮れるチャンスがもしあったらと思い、かつて書いたシノプシス。当時心酔していたヒッチコックへのオマージュである。死んだはずの人物が登場する展開、精神の壊れた人物たち、真夜中に、灯台へと馬に乗って駆けるという幻想的なヴィジョンといった要素が今でも気に入っている。零の発想元は『トイストーリー4』のフォーキー。いささか映画ボケが激しかったころのもので、いまとなっては恥ずかしいものだが、それでも愛着はあるものだ。